持続可能な発展に向けた地域からのトランジション~私たちは変わるのか・変えられるのか(白井信雄・栗島英明 編著)発刊(2023年9月15日)

 転換(トランジション)とは根本にある構造やメンタルモデル(考え方の前提や価値観)を変えることである。変化や改善、修正等とは異なる意味であると強調したい。行動変容を進める環境対策も活発であるが、省エネや電気自動者を購入することは転換とは言い難い。

 転換すべき構造とは化石資源に依存するエネルギー構造であり、工業が主導してきた産業構造やグローバリゼーションである。東京一極集中の国土構造や自動車利用を前提とした都市構造もまた諸問題の根本にある。市場を通じた交換や整備されてきた社会システムに依存し、自立性や共生の歓びが薄い生き方もまた、転換すべき根本である。

 脱炭素を目指すことでエネルギー構造の転換は必須となってきている。しかし、食やエネルギーの地産地消、小さな経済、地方分散、都市のコンパクト化、市民主導の政策立案、共同や共創等は支流に過ぎず、既存の構造を手放す本流の転換には至っていないのではないだろうか。

 本書は、人や地域社会の転換の実例を示し、それを促すワークショップなどの道具や実践を紹介する。移住や起業、市民活動の創発等の先人の転換から多くを学ぶことをできる。地域のフロントランナーによるニッチイノベーションの創出と展開を図る道具やマネジメント手法も導入され、実践が行われている。それらから今日の社会の行き詰まりを見通し、転換後の社会を考える論点を整理したり、転換のダイナミズムや目指すべき社会の理想を具体化することができる。

白井信雄研究室

武蔵野大学工学部サステナビリティ学科/環境システム学科における「持続可能な地域づくり、環境政策、サステナビリティ学」をテーマにした研究室です。研究、教育、社会活動の様子を記録、発信していきます。