「気候変動の地元学」の実践から「気候変動教育」研究に至る

私自身は、教育学の専門ではなく、気候変動への緩和と適応に関する政策として、教育と政策の連動が必要であることから、政策と連動する気候変動教育のアクションリサーチに取り組んできました。

きっかけは、2013年に気候変動適応に関する教育プログラムの開発を担当することになり、教育プログラムの事例を調べるなかで、「地元学」の手法を気候変動教育に使うと面白いかもしれないとひらめいたことです。

気候変動というグローバルな課題と地元学というローカルな活動を合体させた「気候変動の地元学」という言い方にこだわり、最初は長野県飯田市の公民館活動での試行を検討し、実施しました。

同時に、長野県飯田市の住民アンケート調査を実施し、気候変動の影響実感が気候変動の危機認知を高め、適応策あるいは緩和策の実施意図を形成することを確認しました。

飯田市での結果を踏まえて、気候変動の地域への影響を調べ、影響を自分事化することが適応策の教育になると考え、全国の地球温暖化防止活動推進センターに呼びかけました。多くの地域から反応があり、地球温暖化防止活動推進員の研修として、「気候変動の地元学」を各地で実施しました。

ご縁があって、神奈川県相模原市の藤野地区では、「気候変動の藤野学」をまちづくりのNPOと一緒に実施しました。これをきっかけに、藤野は気候変動適応に地域主導で取り組む先進地になりました。

2018年から、岡山に移住し、岡山市内の公民館で、「気候変動の地元学」を実施しようと呼びかけました。その結果、富山(とみやま)公民館で実施することになりました。

ただし、適応だけでなく緩和もあわせて検討することとし、気候変動の地域への影響調べよりも、将来像を描いたうえでのバックキャスティングにこだわり、年間6回の講演とワークショップを積み重ねました。

そして、同様のことを岡山市全体で実施できないかと市に提案し、「気候変動のおかやま学」実践塾を開催しました。

2022年に、日本環境教育学会に「気候変動教育」研究会の設置を提案し、その研究代表をしています。ゼロカーボンや気候変動適応等のように気候変動政策の転機にあって、気候変動教育のあり方を再構築する必要があることから、設置となりました。

同研究会では、「気候変動の地元学」そのものを展開しようと考えはありませんが、それにこだわって経験してきたこと、例えば政策と連動する教育システムや社会転換への参加に踏み込んだ学びが必要である等の考え方を共有し、これまでにない教育プログラムの開発・試行・評価を行うことを考えています。

東京に戻りましたが、「気候変動の江戸川学」をやろうという声もあり、準備中です。

白井信雄研究室

武蔵野大学工学部サステナビリティ学科/環境システム学科における「持続可能な地域づくり、環境政策、サステナビリティ学」をテーマにした研究室です。研究、教育、社会活動の様子を記録、発信していきます。